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理解できるように書くだけでなく、誤解できないように書かなければならない -- 理科系の作文技術

理科系の人が仕事のために書く文書は、「自分だけが読むもの」と「他人に読んでもらうもの」に分けることができる。本書は、後者を「理科系の仕事の文書」と定義し、理科系の仕事の文書を書く際に気を付ける点について取りまとめたものである。

理科系の作文を書くにあたり、以下の二つの心構えが必要だという。

(a)主題について述べるべき事実と意見を十分に精選し、

(b)それらを、事実と意見とを峻別しながら、順序良く、明解・簡潔に記述する。

したがって、以下のような態度は心構えに反する。

日本語は、主語を省略することができたり、修飾語の後に述語がきたり等、注意深く文章を書かないと言語の性質もあいまって簡単に心構えに反するものが書けてしまう。それにもかかわらず、日本の作文教育は「人の心をうつ文書」に主眼がおかれていて、「理科系の仕事の文書」を教わる機会は少ないのではないかと筆者は主張する。例えば、遠足の作文では、正確な描写ではなく、どれだけ登場人物が生き生きと描かれているかによって評価されるというように。

一方で、アメリカの大学では修辞学が必修となっていて、そこでは理科系の仕事の文書の書き方に相当するものを学ぶのだという。

私は4年間物理を専攻していたので、多少なりとも理科系の文書の心得はあると思い込んでいたが、本書をとおして、「ここまで配慮して書いているのか!」と学びがある一冊だった。大学院に進学していたら、本書に登場する院生のように添削されまくる運命だったに違いない笑

仕様書は「理科系の仕事の文書」であるといえるし、提案書は「理科系の仕事の文書」と「人の心をうつ文書」の両方の性格をもっていると言えるだろう。一般的な社会人が一読しても損はない一冊だと思う。