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暖をとる以上の何か——「薪を焚く」

ノルウェーの冬は想像を絶する——氷点下20度くらいは当たり前で、氷点下40度まではニュースにすらならない。人々は薪ストーブを使って冬を乗り切る。

本書はノルウェー人にとって切っても切れない薪に関する実用書である。

薪作りの工程は単純だ。帯に書いてあるように「伐って、割って、積んで、乾かし、燃やす」だけだ。一方で、一冊の本になるくらいに奥深い。

カバ、トウヒ、アカマツ、ナラ、ブナ、カエデと薪にする木材の候補は沢山ある。樹種によって水分の含有率や燃え方が違い、人によっては焚いたときの音で樹種を判別できるというから驚きだ。伐採する時期も大切だ、後述するように良質な薪の条件として乾燥具合がある。そのため、最も木の水分の少ない冬から春にかけて切るのが最善で、「春乾燥」の薪といえば高品質の印となる。夏に伐採して葉をつけたまま放置する「葉枯らし乾燥」という手法もある。伐採後もしばらく成長し、その際に水分を消費させるのだ。

薪づくりにはどんな道具が使われるのだろうか。もっとも大事な道具はチェーンソーだろう。一時間もあれば毎分9000回転する刃によってヨーロッパアカマツの老木は玉切りになる。どこにでも頑固な人はいるもので、昔ながらの弓鋸を愛用する人もいるらしい。玉切り後の薪割りは斧で行われる。斧の形状や重さによって全然違った性格になるようで、チェーンソーよりも自分にあう斧と出会うのは難しいのかもしれない。伐採作業における弓鋸がチェーンソーに置き換えられたように、薪割り作業における手斧は油圧式の薪割り機に置き換えられつつあるようだ。ノルウェーでは家庭用の油圧式薪割り機の売り上げが伸びているらしい。

薪の乾燥作業は、薪の水分量——即ち品質——が決定されるという意味で最も大事な工程かもしれない。乾燥させるには風通しがよく安定した構造が求められる。それには、「ファヴン積み」、「円型積み」、「井桁積み」といったようにいくつも流派がある。実際に薪が積まれている写真が沢山載っているのも本書の見どころの一つだ。水分は樹皮から蒸発しにくいため、ノルウェーの人は薪を乾燥させる際に樹皮を上向きにして積むか、下向きにして積むかという事でしょっちゅう議論になるらしい。それくらいこだわりがあって大変よろしいが、研究によるとどっちでも大差はないらしい。よく乾燥された薪は、片方の木口に洗剤をつけ、もう一方の木口から息を吹きかけると泡が立だせる事ができる!

最後は炎——薪を焚く章だ。薪の燃焼は3つのプロセスからなる。最初は薪の中の水分が蒸発する。生の薪をくべても温まらないのは、水分の蒸発にエネルギーが使われるためだ。次に100度から温度が上がってくると燃焼ガスが放出される。実はこのプロセスでは薪ではなくガスが燃えている。最後に550度くらいの温度でようやく薪が燃えるのである。質の悪い薪や間違った焚き方をすると不完全燃焼してしまう。煙突から煙が出ていくということは、燃焼ガスが燃やされずにエネルギーを捨てているような状態だ。よいストーブはこの煙を二次燃焼させ、その燃焼効率は6割から8割——特殊なストーブでは9割!——にものぼる。この場合、外から見て匂いを嗅いだりすることによって家で薪を焚いているか知ることは不可能に近いのだという。

70シーズンを経たオーレの経験がすべてを物語っている。薪の木口はあまりにも平らで、薪棚ごと巨大な丸鋸で切りそろえたかのようだ。一本たりと、横向きに置かれた薪はない。捻くれた薪も不安定さの原因となることなく、薪棚のなかでそれぞれぴったりの場所におさまっている。

「わしのやり方はきわめて単純だよ。玉切りして割り、積む。それをこまめに繰り返すのさ。」

本書を読み終えることにはきっとわかるだろう。薪を焚くことは暖を取る以上の何かであると。

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