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広大なウイルスの世界——「ウイルスと地球生命」

Description

ウイルスを題材とした本は、人と感染症という観点で書かれることが圧倒的に多いが、本書はちょっと異なる。ウイルスと一口に言っても、病原体となるものから生命と共生するものまで実に多種多様であることを本書は教えてくれる。

ウイルス学の幕開け

本書はまず初めに、ウイルス学がどのようにして始まったか解説してくれる。

1880年ごろ、狂犬病について研究していたパスツールは、明らかに狂犬病に感染している犬から顕微鏡で原因となる細菌を特定することができなかった。そこで、彼は顕微鏡で見つからない微生物をウイルスと呼ぶことにした。これがウイルスの呼称の起源とされてる。

1897年、家畜と植物のウイルスについてほぼ同時に論文で発表されることになる。当時、畜産に大打撃を与えていた牛の口蹄疫は、細菌が原因と考えられて調査されていた。ところが、口蹄疫に感染した牛の水泡を、細菌を通さないフィルターでろ過して健康な牛に注射しても口蹄疫に感染することが判明した。これらの結果が、口蹄疫の病原体は細菌ろ過機を通過するものとして論文に発表された。他方では、タバコモザイク病に感染したタバコに対して同様に実験が行われて論文に発表されることになる。これらの論文によって、微小な細胞説や生きた液性の伝染体説などの理論が生まれることになる。

1933年、電子顕微鏡の発明によって、タバコモザイクウイルスが細長い棒状の粒子であることがヘルムート・ルスカによって解明されたのであった。この時期は、ウイルスは細菌のように培養できないということに気が付いていたものの、依然としてウイルスは小さな細菌であると解釈されていたようだ。

1952年、後にノーベル賞を受賞することになる有名な実験がハーシーとチェイスによって行われた。この実験によって、ウイルスはDNAまたはRNAのいずれかの核酸を持っていて、寄生する細胞の代謝機構を利用して増殖することが判明した。ウイルスは細菌とは全く異なる存在であることが証明されたのである!

Conclusion

本書の第一章「ウイルスはどのようにして見出されたか?」をまとめただけで力尽きてしまったが、本書は「ウイルスは生きているのか?」とか、「病気を治すウイルスの利用」といったような興味深い話題が続く。

ウイルスとは「疾病を引き起こす厄介なもの」くらいの認識しかなかったが、100ページ足らずの厚さの本から、広大なウイルスの世界を垣間見ることができてよかった。

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