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宇宙飛行士に求められるものはなんなのか?——「ドキュメント宇宙飛行士選抜試験」

Description

本書は、2008年から2009年にかけてJAXAが実施した、第5期宇宙飛行士選抜試験を密着取材したドキュメンタリーである。

ちなみに、これ以前の宇宙飛行士選抜試験は極秘事項として取材は断られていた。JAXAとの長い交渉を経てはじめて実現した試みなのだそうだ。ドキュメンタリーの成立から既に熱い。交渉にあたったNHKの職員の皆様、ありがとうございました。

2次試験まで

第5期宇宙試験は963人も応募者がいた! 応募者の年齢は20代から50代と幅広く分布し、職業も自衛隊から金融マン、研究者に医者と実に様々だ。このように、異なったバックグラウンドではあるものの、たった一つだけ共通していることがあった。それは、「宇宙飛行士になりたい」という熱い思いを持っているということだ。

考えてみてほしい。宇宙飛行士になるとNASAで訓練を受けるためにアメリカに引っ越さねばならない。さらに、宇宙飛行士とはつまるところJAXAの職員であり、応募者のスペックを考えると収入も下がってしまう。言うまでもなく常に死と隣り合わせな危険な職業だ。

生活、収入、キャリア、そして命。つまるところ、人生を賭ける覚悟を持った人たちが応募するのだ。

これらの応募者から、どのようにして宇宙飛行士を選抜するのだろうか。

宇宙飛行士は教育コストや採用コストが馬鹿にならないため、頻繁に採用する職業ではない。したがって、長い期間宇宙飛行士として活躍してもらうために健康であることが期待される。また、宇宙空間でしかできない実験をこなす任務もあるため、医学や、科学や工学など幅広い知識が要求される。さらには、宇宙でのトラブルは日常茶飯事であり、冷静して対処する能力や、強いストレスをものともしない精神的な強さも必要だ。

これらの適性を持つ候補者を見つけ出すために、書類審査、英語試験、一般教養・専門試験、医学・心理検査、面接試験等の数々の試練が行われる。すべての試練を耐え抜いた精鋭10人が選抜されたところから本書は始まる。

最終選抜試験

10人の精鋭は国際宇宙ステーションを再現した「閉鎖環境適応訓練設備」に二週間も缶詰にされる。

宇宙ステーションは特殊な環境だ。様々な装置が常に動作しているため、常に騒音にさらされる。狭い空間なのでプライバシーもほとんどない。地上と違って入浴もできないのできつい臭いで満たされている。

この試験では、外界と遮断された異質な空間で常に監視され、宇宙飛行士としての適性をチェックされるのだ。

10人にはどんな課題が与えられ、どのように乗り越えるのだろうか。

結末は是非自分で読んでみてほしい。

Conclusion

NHKの密着取材だけあって、相当よく書かれている! ここ最近読んだ本の中でダントツに面白かった。

宇宙飛行士を目指す熱い人々の物語を是非読んでみてほしい!

さて。結局のところ宇宙飛行士に求められるものはなんなのだろうか。本書の中から宇宙飛行士の向井千秋さんの言葉を引用したい。

宇宙飛行士は、何もスーパーマンである必要はないと私は思う。例えば、しばしば宇宙飛行士は体が頑丈だとか言われるけれども、オリンピックで金メダルを取るわけではないから、何か一つのことにものすごく長けていなくてもいい。語学にしても、同時通訳をしている人たちの方が上だと思うし、健康にしてもキン肉マンですごい力がある必要はない。宇宙飛行士に求められるのは、数々の審査で、すべて合格点を取らなければならないということ。すべての項目で60点を取るというのは意外と難しいんですよ、健康面も含めて。100点じゃなくてもいいんだけれど、50点じゃダメ。勉強も運動も精神・心理も、すべてバランスよく合格点を取らなければならないんです。

-- P238

Note

余談だが、この試験の最終候補者まで残り、惜しくも宇宙飛行士になれなかった内山 崇さんがこの試験について執筆しているらしい。

こっちも面白そうだなー。

そうそう。漫画が好きな人には宇宙兄弟もお勧めしておきます。

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