2022年の将棋情勢
渡辺明名人が将棋情勢について解説していたのがあまりにも面白かったので書きとめておく。興味のある方は本人の解説を参照されたい。
プロやAIの将棋は先手の方が勝率が高い。
プロの公式戦は2700局/年程度あり、先手の勝率は次のようである。
- 2021年:53.1%
- 2020年:54.6%
- 2019年:52.5%
棋士によってはより顕著である。(直近5年)
棋士: 先手勝率/後手勝率
- 渡辺明名人: 72%/55%
- 永瀬拓矢王座: 77%/66%
- 豊島将之九段: 69%/57%
相居飛車に限ると、先手は2六歩または、7六歩である。後手は3四歩または8四歩である。
後手8四歩の場合、先手に戦法の選択権がある。
- 矢倉
- 相掛かり
- 角換わり
後手3四歩の場合、後手に戦法の選択権がある。
- 横歩取り
- 一手損角換わり
- 雁木
- 戦法の選択権があるため3四歩が魅力的に思えるが、プロの対局では横歩取りは先手が60%勝利してしまう。他の戦法も同様に後手の勝率は低い。
- そのような背景があり、後手はやむを得ず8四歩を選択するのが主流である。
- 先手は千日手(引き分けのこと。この場合、先手と後手を入れ替えて指しなおす。)にならないように序盤のリードをキープしたい。後手は戦法も選べない上に勝率も低いため、積極的にリードするというよりは、千日手にできればよしとする。したがって、研究の目的がまったく異なる。
戦法名がつくような新しい戦法はここ20年以上でていない。現代将棋では新戦法で相手を驚かせるという事はなく、対戦相手や持ち時間から既存の戦法を研究するとのこと。
- AIが最善手とする手も、プロから見て実戦に採用しにくいということがある。
- AIが疑問手とする手を指された場合に、研究を行っていないが故に優勢に持っていくことが難しいことがある。
後日、将棋のAIについてたまたま飯能将棋センターを運営している方の面白い書き物を見つけた。AIの進化の目覚ましさが見て取れる。
1985年発売の内藤九段将棋秘伝のことか?
これらは10級以下、少し強くなっても7~8級だったと思う。そんな棋力のソフトを何回か試した程度で、当時は将棋ソフトがいずれ有段者を相手にできるなんて考えられなかったものだ。
1996年発売のNINTENDO 64最強羽生将棋。
これは正確には初段はなかったのかもしれないが、それまでがそれまでだっただけに、非常に強い印象を受け驚いた。特に驚いたのが、△7七に出来たと金が、6筋へと2八にいる玉に近づいて来た時のこと。それまでのソフトは、(玉が居玉でさえ)かならず桂香を取りに△8八へ入っていたからである。と金が玉に近寄ってきたあの一瞬は今でも忘れられない。
1998年発売のNINTENDO 64 AI将棋3。
非常に筋が良くなり、しかも指し手が早い(その当時としては)。それまでは一手指すのに何分もかかっていたものが、40秒程度で指すようになったのだ。それでいて有段者並みの手を指す!これは大いなる驚きだった。
2002年発売の東大将棋5。
特にその終盤力。将棋ソフトが強くなってきたと言っても、詰み以外は、序盤・中盤・終盤、どこを取ってもまだまだと思っていたのだが、そんな思いをこの東大将棋5は吹っ飛ばした。終盤に入るまでに優勢にしておかないと勝ちきれない、そう言う風に思わせられるほど終盤力が強化されていたのもこの東大5からである。勝ちだと思っていた局面から絶妙の詰めろ逃れの詰めろをかけてきた瞬間は忘れられない。
2004年発売の激指4。
中盤力が強化され、終盤に磨きが掛かった。棋譜分析もより正確になりほぼ完璧なソフトとなった。東大将棋5の時でさえ感嘆したその終盤力は、はっきりと検討に使えるようにさえなってきた。
あいにく先に挙げたAIと対局した経験がないので、これらの記述はそうだったんだなと思うほかないが、門外漢でも、数年おきにどんどん強くなっている様がよくわかる明快な文章である。
個人的には、大学生のときに池袋のジュンク堂で「われ敗れたり」を立ち読みして衝撃を覚えた記憶が鮮明に残っている。これは2012年、米長邦雄永世棋聖がAI「ボンクラーズ」に負けた手記である。そして、2022年。トップのプロ棋士ですら研究にAIを用いているという渡辺明名人による解説は先に説明したとおりである。