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6月はまだ夏でなく、7月はすでに夏ではない——「マイナス50℃の世界」

サハ共和国は、真冬になるとマイナス五〇度以下にもなり、世界一寒い国として知られている。そんな寒さの中で人々はどんな生活を送っているのだろうか。本書はサハ共和国に取材に訪れた著者の体験記である。

物語はサハ共和国のオフロプコフさんから送られてきた、4月2日付けの手紙の紹介から始まる。

「お元気ですか。こちらはもうすっかり暖かくなりました。外の気温はマイナス二一度。暑いほどです」

狂ってる!気温がマイナスにならない日数が、首都ヤクーツクで年間平均95日、オイミャコンで69日しかないのだという。

筆者は冒頭の手紙に対して次のように返信したのであったが、オフロプコフさんに狂ってると思われたに間違いない。

「東京は春だというのにまだはだ寒く、きょうの気温はプラス二一度です」

現地で合流したときもこんな具合だ。

ところが機外へ一歩ふみ出したとたん、チクチクとさすようないたみが鼻の中を走りぬけました。鼻毛や鼻の中の水分が凍ってしまったのです。タラップを一段、二段と下りるにしたがって、いたみは増し、顔を出してはいられません。わたしはあわててマフラーで顔をおおいました。

それに対して、現地の人の反応はこうだ。

でも空港まで出むかえてくれたテレビ局のオフロプコフさんも空港の職員も口をそろえてこう言いました。「みなさんは日本から暖かさを運んできてくれましたね。マイナス三九度なんて、こんな暖かい日は久しぶりです」

衣食住

とにかく、マイナス50度の世界では私たちの常識は通用しない。

ビニール、プラスチック、ナイロンなどの石油製品はマイナス40度以下になると破れてしまうので現地の人は毛皮を防寒着として着用する。彼らは何枚も重ね着することはせず、防寒着の毛皮を脱ぐと驚くほど軽装だ。しかも、トナカイの群れを追って野宿することもあるというから、毛皮の保温力は相当である。

彼らは生肉や冷凍生肉を食べる。冬季には野菜が手に入らないけれども、動物の新鮮な生き血や生肉でビタミンCを補えるので、壊血病とは無縁だ。休みの日には凍結した川に穴をあけて釣りを行う。釣り上げた瞬間に魚が瞬間冷凍される点を除けば、我々のよく知るワカサギ釣りのようなものかもしれない。

ヤクーツクでは、永久凍土という自然条件のために、どの家も恐ろしく傾いている。そのため、建築物は五十年ももたないらしい。メンテナンス性のために水道、下水、給湯、暖房用などのパイプがことごとく地上に出ているのも特徴的だ。家の作りも日本のそれとはまったく異なる。外壁の厚みは50cmはあり、窓は全部三重である。床下に掘った穴は天然の冷凍冷蔵庫として機能する。

ここで、筆者は何かが不足している事に気が付く。

ふろ場や便所がありません。たずねてみました。村に共同のむしぶろがいくつかあり、便所は外(!?)だというのです。

サハ共和国は日本で生活している身として、一度は行ってみたい異世界だ。

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