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ユーザに考えさせるな――「ウェブユーザビリティの法則」

Description

本書は、Appleをはじめとするいくつもの有名企業のウェブサイト構築にもかかわってきたユーザエクスペリエンスの専門家であるスティーブ・クルーグによって書かれた、ウェブのユーザビリティについての本である。ウェブユーザビリティについてコンパクトにまとめられているのが特徴だ。

この手の主題を扱う本としては、本書はかなりページ数の少ない部類に属するが、私はあえてそのように心がけた。長時間のフライト中に読み切れる程度を目指したのだが、成功しているだろうか。

以下に述べられているように、筆者が最も大事とする法則は「ユーザに考えさせない」ということである。これは原題「 Don't Make Me Think」の意味するところでもある。

もし、ユーザビリティの法則用に空けておける記憶スペースが極度に限られているなら、覚えておくのはこの法則1つだけでいい。

この法則が言わんとしてるのは、「ユーザがウェブページを見たとき、何もかもが一目瞭然であるべきである。」いうことだ。これはウェブに限らずユーザビリティの本質であると言えるだろう。

私にとって最も参考になったのは、2章の「ユーザは"実際には"どんな風にウェブを使っているのか」だ。筆者は何人もの被験者を観察した経験から、次のようなことが分かったという。

これらの事実によって、文字で使い方を書いても決して読まれることはなく、こちらの意図した方法で使用されることはないので、利用者の使い方を観察するしかない。という洞察が得られる。だからこそ筆者はユーザビリティテストを大事にすべきだと主張しているのだろう。

計算機科学の分野では、設計した意図とは全然違った方法でソフトウェアを使用するというのはなじみ深い現象ではないだろうか。例えば、cat(1)はいい例だろう。ファイルを結合するという本来の目的よりは、単一のファイルを標準出力に出力する目的で利用されることがある。他にも悪名高いネ申Excelはこの代表例だろう。

他分野だってよくあることだろう。工学の分野では、コンプレッサーを肛門に空気を入れる目的で使用するという悲惨なニュースが定期的に起きている。

ユーザビリティテストをはじめて見学するウェブデザイナーや開発者を観察するのは、なかなかの「みもの」だ。ユーザがどうしようもないほど見当はずれな物をクリックするのを見ると、最初、彼らは仰天する(たとえば、そのユーザがナビゲーションバーにある、素敵にでっかい「ソフトウェア」ボタンをクリックしないで、「ええっっと、ソフトウェアを探しているんだけど、この「お買い得」ってのをクリックしてみようかな。トクっていうのは魅力的だからね」というようなことを言ったりする場合だ。)

ユーザビリティテストを行うと、こういう事が起きるんだろうなというのがよく伝わる。

9章で詳しく説明されているように、ユーザビリティテストは難しいことではなく、お金も時間も専門家も必要ない。あなたが、コンプレッサーの設計者だとして、肛門に空気を入れる目的で利用されることを事前に予言できないのなら、絶対にユーザビリティテストを行うべきなのである。

Conclusion

第二版の発刊日は2007年。ただでさえ変化の激しいウェブの世界なので、2024年の今となっては陳腐化した具体例が散見される。しかし、抽象的な内容は決して色あせていない。むしろ、「ユーザーに考えさせるな」というような教訓は不必要に複雑化された現在のウェブ開発において、ますます重要になってくることだろう。

ウェブ開発に携わるシステムエンジニア視点から言えば、「誰のためのデザイン?」をより実用的にした一冊であった。薄くて読みやすいのでウェブユーザビリティの最初の一冊としてお勧めしたい。

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