Mukai Systems

人にやさしいインターフェース——「ヒューメイン・インターフェース」

Description

本書は、計算機科学の分野に特化したユーザーインターフェースについての本である。タイトルのヒューメイン(humane)は思いやりのあるという意味で、人にやさしいインターフェースにしなさいというのが本書の主張だ。ちなみに、著者のJef RaskinはアップルコンピュータにおけるMacintoshプロジェクトでリーダーを務めたことで知られているそう。(そのことを理解していればWindowsのメニューに言及している箇所でクスっとできるだろう。)

ヒューメイン・インターフェース

インターフェースの良し悪しについて考えるにあたって、人間が同時に意識して行える作業はたかだか一つということを十分に理解しなければならない。

それが理解できれば、よいインターフェースはユーザに意識させないものである、という原則が導ける。なぜなら、インターフェースに意識を集中せねばらない状況というのは、本来行いたいことに意識を向けられていないということになるからだ。

そして、人間が無意識に作業を行えるようになるには脳が習慣形成を行う必要がある。

そういうわけで、本書ではヒューメイン・インタフェースを以下のように定義している。

理想的なヒューメイン・インタフェースとは、ユーザの作業におけるインタフェース要素を良性の習慣へと変えるものなのです。製品を複雑かつ使いづらいものにしている問題の多くは、習慣形成における有用な属性と有害な属性を配慮していないマン・マシン・インタフェース・デザインによって引き起こされているのです。

-- P23

モード

ヒューメイン・インタフェースを理解したところで、インターフェースで悪とされるモードについて紹介しよう。本書では以下のように定義されている。

あるジェスチャに対してマン・マシン・インタフェースがモードを持つのは、(1)インタフェースの現在の状態がユーザの注意の所在となっておらず、(2)そのジェスチャに対して複数の異なった応答がインタフェースによって実行される場合なのです。

-- P67

CapsLockキーがオンになっていることに気づかず、パスワードを何度も間違えて入力してしまうとか、イラストソフトで消しゴムモードにしたつもりがペンモードのままで、消そうとした部分に線を引いてしまうといった誤操作には誰でも馴染みがあるはずだ。これがモードによる弊害だ。

モードの代表と言えば、Vimだろう。Vimは、カーソル移動やテキスト操作を行うためのnormal modeや、通常の入力を行うinsert modeなどのモードを切り替えて使用するように設計されている。

では、Vimは劣悪なインタフェースでやはりEmacsのほうがよいとなるのだろうか。

断じてそんなことはない!笑

Jef Raskinのモードの定義が面白いのは、ユーザの注意の所在の有無を定義に含めていることだ。つまり、Vimを使った事のない人によってはヒューメインなインターフェースではないかもしれないが、今がどのモードで、何をしたらどうなるか理解している熟練のVimmerにとっては問題ないというわけ☆

とはいえ、一般にモードを用いる必要がないなら用いるべきではないのは間違いないだろう。

CapsLockキーの例など些細な誤りなら笑って済ませられる一方で、自動操縦モードだと思っていたが実際は手動操縦モードだったために起きた悲惨な航空事故が紹介されていて、こちらはまったく笑えない。

本書ではモードレスを強く推奨している。

インターフェースの評価

インターフェースを定量的に評価するという試みも面白かった。マウスの移動、キーの入力、マウスとキーボードの持ち替え等、ユーザの操作毎にコストを定義することによって、一連の操作を行うために必要な作業量を計測できるようにするという理屈だ。

具体例として、摂氏と華氏の変換インターフェースを評価していた。

例えば、あまり効率がよくないのがこれ。

変換方法を明示するタイプ

変換方法をラジオボタンで選択した後に入力を行うものだ。

本書の一つの答えがこれ。変換したい数値を入力することによって、入力が摂氏だった場合、と華氏だった場合の両方を出力するようになっている。ユーザは数字を入力するだけでよいので、定量的な評価では上のものよりも二倍以上効率なインターフェースとされていた。

入力した数値が勝手に変換されるタイプ

Google検索でよく見るのがこれ。片方を入力するともう片方が自動で計算される。本書の提示しているものよりも使いやすい気がする。

数値を入力するともう片方が自動で算出されるタイプ

Conclusion

ヒューメインなユーザ・インターフェースこそがコンピューター・インターフェースが目指すべき方向であると本書は説く。そして、コンピュータが複雑なのでインターフェースも複雑にならざるを得ないというのは甘えだという。

コンピュータが難しすぎて使えないのは、コンピュータを使って行っていることが取り返しのつかないほど複雑なものとなってきたためである、という意見は間違っています。

-- P1

本書を読めばその主張があながち間違いではないことが理解できるだろう。

この手の金字塔とされているNormanの本と比べて、コンパクトにまとまっていて、しかも示唆に富んでいる。

随分と古い本で、既に廃盤になってるっぽい? 入手の困難性が玉にきずか。

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